はじめに:2025年はAIエージェント元年
2025年、日本のビジネス界において「AIエージェント」が大きな注目を集めています。ChatGPTに代表される生成AIの登場から約3年、AI技術はさらに進化し、単なる質問応答システムから、自律的に判断し行動する「エージェント」へと変化を遂げました。
Gartner社の予測によれば、2028年までに日本企業の60%がAIエージェントを活用し、機械的な業務タスクの自動化を実現するとされています。また、世界のAIエージェント市場規模は2023年の約37億米ドルから2033年には約1,391億米ドルに達すると予想され、今後10年間で約38倍という驚異的な成長が見込まれています。(※1)
※1 出典:Gartner、AIエージェントとエージェント型AIに関する見解を発表
本記事では、日本国内でAIエージェントを提供している主要企業やサービスを詳しく紹介し、それぞれの特徴や活用事例を解説します。企業のDX推進担当者や経営者の方々にとって、AIエージェント導入を検討する際の参考になれば幸いです。
AIエージェントとは何か?従来のAIとの違い
AIエージェントを理解するためには、従来の生成AIやチャットボットとの違いを明確にする必要があります。
従来の生成AI(ChatGPTなど)
- ユーザーが質問やプロンプトを入力
- AIが応答を生成
- 一度のやり取りで完結
- 人間が次のアクションを決定
AIエージェント
- 目的を与えるだけで自律的に動作
- 複数のタスクを連続して実行
- 外部ツールやシステムと連携
- 自ら判断し、学習し、改善する
つまり、AIエージェントは「単一のタスク」をこなす存在ではなく、「自ら求められる結果を考えて行動する、業務プロセスをカバーする代理人」のような役割を果たします。
例えば経費精算の場面を考えてみましょう。従来のRPAでは「この書類のこの項目をこのシステムに入力する」という細かい指示が必要でした。一方、AIエージェントに「経費を精算しておいて」と依頼すれば、領収書の読み取り、適切な勘定科目の選択、申請書の作成、上司への承認依頼まで、一連のプロセスを自律的に完了させることができます。
日本の主要AIエージェント提供企業
1. セールスフォース・ジャパン

セールスフォースが提供する「Agentforce(エージェントフォース)」は、グローバルで大きな注目を集めるAIエージェントプラットフォームです。2025年2月には、GoogleのGeminiとの提携を発表し、さらに機能を拡張しています。
主な特徴:
- CRM(顧客関係管理)データと連携した高度な顧客対応
- 営業活動の自動化
- カスタマーサービスの効率化
- 多言語対応で日本市場にも最適
活用シーン: 営業チームがAgentforceを活用することで、リードの優先順位付け、フォローアップメールの自動送信、商談スケジュールの調整などを自動化できます。カスタマーサポートでは、顧客の問い合わせ内容を分析し、最適な回答を提示したり、適切な担当者へエスカレーションしたりすることが可能です。
2. 株式会社日立製作所

日立は、製造や鉄道、電力といった現場を意識したAIエージェントサービスを展開しています。特に「保守問い合わせAIエージェント」は、OT(制御・運用技術)に関する熟練者のノウハウを活用した高精度な回答生成が特徴です。
主な特徴:
- 製造業や社会インフラに特化
- 熟練技術者のノウハウをAIに組み込み
- 問い合わせ内容の自動深掘り機能
- 適切な担当者への自動配信
活用シーン: 工場の保守担当者が設備トラブルに直面した際、AIエージェントが過去の事例や熟練者のノウハウから最適な対処方法を提示します。必要に応じて専門家への自動エスカレーションも行い、問題解決までの時間を大幅に短縮できます。
3. Google Cloud(グーグル・クラウド・ジャパン)

Google Cloudは「Agentspace」というAIエージェント基盤を提供しています。企業内に点在する業務システムやデータに横断的にアクセスし、ユーザーの権限内で安全に検索・実行できる点が大きな特徴です。
主な特徴:
- Geminiを活用した高度な言語理解
- 企業システムへの安全なアクセス
- 権限管理の徹底
- スケーラブルなインフラ
活用シーン: 営業担当者が「先月の売上トップ10の顧客リストと、それぞれの購買傾向をまとめて」と依頼すると、Agentspaceが複数のシステム(CRM、販売管理、データウェアハウス)から必要な情報を収集し、分析レポートを自動生成します。
4. Amazon Web Services(AWS)

AWSもAIエージェント分野に積極的に参入しており、「Amazon Bedrock Agents」を通じて、企業独自のAIエージェントを構築できる環境を提供しています。
主な特徴:
- 柔軟なカスタマイズ性
- AWSの豊富なサービスとの連携
- セキュリティとコンプライアンスの強化
- グローバルインフラ
活用シーン: ECサイト運営企業がAmazon Bedrock Agentsを使って、在庫管理、価格最適化、顧客サポート、マーケティング施策の提案まで、一連のeコマース業務を自動化できます。
5. NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)

NTTコミュニケーションズは、日本企業のニーズに特化したAIエージェントソリューションを展開しています。日本語処理の精度の高さと、国内企業の業務フローへの理解が強みです。
主な特徴:
- 日本語に最適化された処理能力
- 通信インフラとの連携
- セキュリティ要件への対応
- 手厚い国内サポート体制
活用シーン: コールセンター業務において、顧客からの問い合わせを音声認識で自動テキスト化し、過去の対応履歴や社内ナレッジベースから最適な回答を生成。オペレーターの負担を軽減しながら、顧客満足度を向上させます。
6. JAPAN AI株式会社

JAPAN AI株式会社は「JAPAN AI AGENT」を提供し、様々なビジネスニーズに合わせたエージェントを多数用意しています。日本市場に特化したサービス展開が特徴です。
主な特徴:
- 多様な業種・業務に対応
- 日本企業の商習慣を理解
- スピーディな導入支援
- 柔軟なカスタマイズ
活用シーン: 人事部門では採用プロセスの自動化、営業部門ではリード管理と提案書作成、経理部門では請求書処理と支払管理など、部門ごとに最適化されたAIエージェントを配置できます。
7. 株式会社Lightblue

Lightblueが提供する「Lightblue Assistant」は、日本語に強く、企業固有の業務フローに合わせたカスタマイズが可能なAIエージェントです。段階的な導入にも対応しており、リスクを抑えながらDXを推進できます。
主な特徴:
- 日本語の自然な処理
- 既存ワークフローとの統合
- 段階的導入サポート
- 業務特化型カスタマイズ
活用シーン: 製造業の品質管理部門で、検査データの分析、不良品の原因特定、改善提案の作成まで、一連の品質管理プロセスをAIエージェントが支援します。
8. 株式会社言語理解研究所(ILU)

ILUが提供する「DX-laei(ディーエックス レイ)」は、日本語に特化した自然言語処理技術を強みとするAPIサービスです。AIエージェントやRAG(Retrieval-Augmented Generation)の業務活用における「回答精度の低さ」という課題を解決します。
主な特徴:
- 日本語処理の高精度化
- ドキュメントの構造化
- 質問意図の意味的再構成
- RAGの精度向上
活用シーン: 社内の膨大な技術文書やマニュアルを構造化し、従業員からの問い合わせに対して、文脈を正確に理解した上で最適な回答を提示します。「この製品の保守手順は?」という曖昧な質問でも、製品名や状況を特定し、的確な手順を案内できます。
9. 株式会社AI Shift

AI Shiftは「AI SHIFT SUMMIT 2025」を開催するなど、AIエージェント実装の最前線を走る企業です。カスタマーサポート領域を中心に、実用的なAIエージェントソリューションを提供しています。
主な特徴:
- カスタマーサポート特化
- 実装ノウハウの豊富さ
- 業界トレンドへの深い知見
- 実績に基づく提案力
活用シーン: ECサイトのカスタマーサポートで、注文状況の確認、返品・交換対応、商品に関する質問対応など、定型的な問い合わせをAIエージェントが24時間365日自動対応します。
10. 日本マイクロソフト株式会社

Microsoftは「Copilot」シリーズを通じて、Office製品やAzureと統合されたAIエージェント機能を提供しています。日常的に使用するツールに組み込まれているため、導入ハードルが低いのが特徴です。
主な特徴:
- Office製品との深い統合
- 日常業務での自然な活用
- グローバル標準のセキュリティ
- 継続的なアップデート
活用シーン: Microsoft Teamsでの会議中、Copilotが議事録を自動作成し、アクションアイテムを抽出。会議後には参加者に自動でタスクを割り当て、進捗管理まで支援します。Excelでは、データ分析から可視化、レポート作成までを自動化できます。
AIエージェントの活用領域
AIエージェントは様々な業務領域で活用が進んでいます。主な活用領域をご紹介いたします。
1. カスタマーサポート
- 問い合わせ対応の自動化
- 24時間365日対応の実現
- 多言語対応
- エスカレーションの最適化
2. 営業支援
- リード管理の自動化
- 商談スケジュールの調整
- 提案書の自動生成
- 売上予測と戦略提案
3. マーケティング
- コンテンツ生成
- キャンペーン管理
- 顧客セグメンテーション
- ROI分析と最適化提案
4. 人事・採用
- 応募者スクリーニング
- 面接スケジュール調整
- 従業員からの問い合わせ対応
- オンボーディング支援
5. 経理・財務
- 経費精算の自動化
- 請求書処理
- 予算管理と分析
- コンプライアンスチェック
6. 製造・保守
- 設備トラブルシューティング
- 予防保全の提案
- 品質管理データ分析
- 技術ナレッジの共有
7. データ分析
- レポート自動生成
- トレンド分析
- 予測モデルの構築
- 意思決定支援
8. IT運用
- ヘルプデスク対応
- システム監視
- セキュリティインシデント対応
- 運用プロセスの最適化
AIエージェント導入のメリット
企業がAIエージェントを導入することで得られる主なメリットは以下の通りです。
1. 業務効率の劇的向上
人間が行っていた反復的な作業や、複数のシステムを横断する作業をAIエージェントが自動化することで、従業員はより創造的で価値の高い業務に集中できます。ある企業の事例では、問い合わせ対応にかかる時間が70%削減されたケースもあります。
2. 24時間365日の稼働
AIエージェントは休みなく働き続けることができるため、顧客対応やシステム監視など、常時対応が求められる業務において大きな価値を発揮します。
3. 品質の均一化
人間の場合、担当者によってサービス品質にばらつきが生じることがありますが、AIエージェントは常に一定の品質を保ちます。ベテラン社員のノウハウをAIに組み込むことで、組織全体のサービスレベルを底上げできます。
4. コスト削減
初期投資は必要ですが、長期的には人件費の削減、ミスによる損失の減少、業務プロセスの最適化によって、大幅なコスト削減が期待できます。
5. データドリブンな意思決定
AIエージェントは大量のデータを分析し、人間では見逃してしまうようなパターンや洞察を発見します。これにより、より正確で根拠のある意思決定が可能になります。
6. スケーラビリティ
事業拡大に伴う業務量の増加に対して、AIエージェントは柔軟にスケールできます。人材採用・育成に比べて、迅速かつコスト効率的に対応力を拡大できます。
7. 従業員満足度の向上
単調で退屈な作業をAIに任せることで、従業員はより挑戦的でやりがいのある仕事に取り組めるようになり、モチベーションと満足度が向上します。
AIエージェント選定のポイント
多くのAIエージェントサービスが提供される中、自社に最適なものを選ぶための重要なポイントを紹介します。
1. 日本語対応の品質
日本企業にとって、日本語の処理精度は極めて重要です。特に微妙なニュアンスや敬語表現、業界特有の専門用語を正確に理解・生成できるかを確認しましょう。
2. 既存システムとの連携性
CRM、ERP、各種業務システムなど、既存のIT資産と円滑に連携できるかどうかは導入成功の鍵となります。API連携の柔軟性や、主要なビジネスツール(Salesforce、Microsoft、Googleなど)との統合実績を確認しましょう。
3. セキュリティとコンプライアンス
企業の機密情報や個人情報を扱う場合、セキュリティ対策は必須です。データの保管場所、暗号化、アクセス権限管理、ログ管理などを詳しく確認してください。また、業界特有の規制(金融、医療など)への対応も重要です。
4. カスタマイズ性
標準機能だけでなく、自社の業務フローや要件に合わせてカスタマイズできるかどうかも重要です。ローコード/ノーコードでの設定変更が可能か、専門知識がどの程度必要かを確認しましょう。
5. サポート体制
導入後のサポート体制、トラブル発生時の対応スピード、日本語でのサポート可否などを確認してください。特に初めてAIエージェントを導入する企業にとっては、手厚いサポートが成功の鍵となります。
6. 実績と事例
同業他社や類似規模の企業での導入実績があるかどうかは、リスク評価の重要な指標です。具体的な成果(業務時間削減率、コスト削減額など)が公開されているサービスは信頼性が高いといえます。
7. コストパフォーマンス
初期費用、月額費用、従量課金の有無など、総コストを正確に把握しましょう。ROI(投資対効果)を試算し、何ヶ月で投資を回収できるかを検討することが重要です。
8. スケーラビリティと将来性
最初は小規模から始めても、将来的に利用範囲を拡大できるかどうかを確認しましょう。提供企業の技術開発力や、継続的なアップデート体制も評価のポイントです。
AIエージェント導入のステップ
AIエージェントを効果的に導入するための一般的なステップを紹介します。
ステップ1:現状分析と課題の明確化
まず、自社の業務プロセスを分析し、どの領域でAIエージェントが最も効果を発揮するかを特定します。以下のような観点で評価しましょう。
- 反復的で時間がかかる業務
- ミスが発生しやすい業務
- 24時間対応が求められる業務
- 複数のシステムを横断する業務
- 専門知識が必要だが属人化している業務
ステップ2:目標設定とKPI定義
AIエージェント導入によって達成したい具体的な目標を設定します。
- 業務時間を○○%削減
- 顧客満足度を○○ポイント向上
- コストを年間○○万円削減
- 対応可能な問い合わせ件数を○○倍に
ステップ3:サービス選定とPoC実施
前述の選定ポイントに基づいて候補を絞り込み、可能であればPoC(概念実証)を実施します。小規模な範囲で実際に試すことで、自社の環境での動作や効果を確認できます。
ステップ4:段階的な展開
いきなり全社展開するのではなく、特定の部門や業務から始めることをお勧めします。初期段階での学びを活かして、徐々に適用範囲を広げていきます。
ステップ5:社内教育と変革管理
AIエージェントを効果的に活用するためには、従業員の理解と協力が不可欠です。以下のような取り組みが重要です:
- AIエージェントの目的と利点の説明
- 使い方のトレーニング
- フィードバックチャネルの設置
- 抵抗感への対応と不安の解消
ステップ6:運用と継続的改善
導入後も、定期的に効果測定を行い、改善を続けることが重要です。
- KPIのモニタリング
- ユーザーフィードバックの収集
- AIエージェントの学習データの更新
- 新たな活用領域の探索
2025年のAIエージェントトレンド
AIエージェント分野は急速に進化しており、2025年には以下のようなトレンドが見られます。
1. 専門特化型エージェントの台頭
汎用的なアシスタントから、AI弁護士、AI放射線科医、AI会計士など、特定の専門分野に特化した高度なエージェントが登場しています。これらは業界特有の知識や規制を深く理解し、専門家レベルの判断を支援します。
2. Agent to Agentの実現
複数のAIエージェントが互いに対話・協力し、人間は最終的な意思決定のみを行う世界が到来しつつあります。例えば、営業エージェントが商談情報を法務エージェントに共有し、契約書のレビューを依頼。その結果を財務エージェントが評価し、最終的に人間の管理職が承認するといった流れです。
3. マルチモーダル対応の進化
テキストだけでなく、画像、音声、動画など、複数の形式のデータを統合的に処理できるAIエージェントが増えています。これにより、より自然で直感的なインタラクションが可能になります。
4. エッジAIの活用
クラウドだけでなく、デバイス側でAI処理を行うエッジAIの活用が進んでいます。これにより、レスポンスの高速化、プライバシーの向上、オフライン環境での動作が実現されます。
5. 倫理とガバナンスの重視
AIエージェントの判断や行動に対する説明責任、バイアスの排除、プライバシー保護など、倫理的な側面がますます重要視されています。透明性の高いAI、監査可能なAI、人間の価値観に沿ったAIの開発が進んでいます。
まとめ:AIエージェントがもたらす未来
2025年、AIエージェントは企業の競争力を左右する重要な要素となっています。日本国内でも多様なAIエージェントサービスが提供され、各社がそれぞれの強みを活かした独自のソリューションを展開しています。
セールスフォースや日立、Google Cloudといった大手企業から、Lightblue、JAPAN AIなどの専門企業まで、選択肢は豊富です。重要なのは、自社の課題とニーズを正確に把握し、それに最適なサービスを選択することです。AIエージェントの導入は、単なる業務効率化のツールではありません。働き方を根本から変革し、従業員がより創造的で価値の高い仕事に集中できる環境を作り出します。また、24時間365日稼働することで、顧客体験を向上させ、ビジネスの成長を加速させます。
ただし、成功のためには、適切なサービスの選定、段階的な導入、継続的な改善、そして組織全体での理解と協力が不可欠です。本記事で紹介した情報を参考に、自社に最適なAIエージェントの導入を検討してみてください。AIエージェントは、もはや未来の技術ではなく、今すぐ活用できる現実のソリューションです。競合他社に先駆けてAIエージェントを効果的に活用することが、これからのビジネスにおける成功の鍵となるでしょう。
デジタルリードエックス 
